朝、ホテルから劇場に行くときはスーツ姿でYを送り(しかもホテルから劇場までは歩いても5〜6分なのに車を使って)、劇場に入ったらすぐに全身黒のジャージに着替えるのです(廊下で)。
こういった舞台にしょっちゅう出演している、例えば大物俳優Kの付き人のような場合だったら、作務衣のような服を格好良く着こなして立ち居振る舞うのですが、僕の場合は1ヶ月間だけの期間限定だったので、黒いジャージでよいことになりました。それに黒い靴下・黒いサンダルを履き、黒いウェストポーチを付け、Yの楽屋の外(廊下)に控えるのです。
そして幕が上がるとYを舞台に案内し、そのまま袖に控え、ときには小道具を渡したり、衣装替えを手伝ったり、化粧直しを手伝ったりと、Mのときとは比べモノにならないくらい忙しく動き回りました。
尚かつ、Yがいちいち何も言わなくても、その場その場で何が必要なのか目線や呼吸、チョットした仕草を見て僕が判断しなければならず、最初の頃は戸惑いっぱなしでした。
しかしそれは、どの俳優の付き人でも同じで、それこそ俳優Kの付き人などは、指を二本出したら「タバコ」、コップを持つような仕草をしたら「水」と、Kの一挙一動を見逃すことなく、素早く反応しているのを見ると「さすが慣れたもんだ」と感心したものでした。
そんな感じで舞台が進み、そして公演が終了すると、ジャージからスーツへ素早く着替え、徒歩5分の道のりを車でホテルに送って一日が終了します。
ただ、一日に2回公演の場合が多く、終わるのは夜になるので、その後、大抵は一緒に夕食を取り、2〜3時間ほど話の聞き役となった後にホテルに帰るので、気を抜けるのは夜に寝るときくらいのものでした。
しかし、それは仕事なので別に問題はありませんし、職業柄、ある程度の公私混同は仕方のないところです。
ただ、このYに限っては他のタレントとはチョット違い、公演のあるなしに関わらず、プライベートな時間でさえYの身のまわりの世話をしなければならないという、まるで執事のような1ヶ月を過ごしました。 |